夏目漱石になりたい


 


君なら「I LOVE YOU」をどうやって訳す?





そんな話をされた。というか、聞いた。




夏目漱石を思い出したし、質問された側もやっぱり夏目漱石が浮かんだようで、



「月が綺麗ですね、みたいなこと?」



と聞き返していた。




わたしならなんて訳すのだろう。



あの人は、なんて訳すのだろう。




彼女は困惑してうんうんと悩んで、見かねたのか彼は、僕だったらこっちにおいでかな、と笑っていた。


優しさが溢れ出ていて素敵だと思った。




お友達は「お前じゃなきゃ嫌だ」と言っていて、日本語って難しいなと改めて思う。







月が綺麗ですね。




たぶん、これは同じ場所で同じ景色を共有しているからこそ言える台詞で、日常でぽつりとこぼれた「I LOVE YOU」なのだろう。


つまりわたしが伝えたい「I LOVE YOU」とは違うし、きっとあの人が伝えたいものでもない。




わたしは何をするにも頑張れない。誰かに寄り添っていたいから、たぶん、月が綺麗ですね、なんて言えない。




そばにいて、とか、そんなもんだと思う。




わたしのために何かしてくれなくていいから、わたしのことは最優先じゃなくていいから、ただそばにいてほしい。



本当はもっと強くあるべきだと思う。「I LOVE YOU」にはふさわしくないとも思う。




どうして夏目漱石は「月が綺麗ですね」なんて言えたのだろう。




夏目漱石になりたい。